イギリスの数学者でありデータサイエンティストであるクライブ・ハンビーが2006年に「データは新たな石油だ(Data is the new oil)」と言ってから、およそ20年近くの時間が経過しました。20世紀は石油の産業化が飛躍的に進展した時代であり、エネルギー源や工業製品、あるいは医薬品の開発ですら石油化学技術の大きな進歩に支えられています。国も企業も石油を制する者が20世紀において大きな力を持ったのと同様に、これからの時代はデータを制する者が大きな力を持つのだ、というのがハンビーの発言の背後にあるのでしょう。
実際、近年ほぼ全ての学問分野において、データサイエンスの進歩は少なからぬ影響を与えるようになりました。数学や分子生物学といった基礎研究主導の分野においても、医学や工学、環境科学といった応用研究主導の分野においても、あるいは文学や歴史学といった人文学分野においてすら、データサイエンスを使う新たなアプローチによる発見が日々生まれています。また、近年EBPM、すなわち経済や教育、健康、環境など様々な分野の政策決定はデータ(エビデンス)に基づくべしといった考え方も、データサイエンスの発展抜きに語れるものではありません。
しかしながら、データサイエンスがこれほど多くの分野において力を発揮できるポテンシャルがあるにもかかわらず、我が国においてはまだまだその活用が十分であるとは言い切れません。実は、データサイエンスでは「統計的」・「計算機的」・「人間的」という3つの視点が重要だと考えられています。すなわち、純粋な数理的側面だけではなく、多様性やノイズを持った現実のデータをモデル化する統計的思考と、時に大量のデータを安全かつ高速に処理する計算機的思考と、データの周辺あるいは応用しようとする領域に存在する文脈や制約に思い至れる人間的側面、この全てが揃って初めてデータサイエンスは価値を発揮するわけです。我々千葉大学データサイエンスコアは、学内外の研究者の皆さま、あるいは地域の内外におられる企業や自治体の皆さまがデータサイエンスを活用しようとされる際の主要なボトルネックを解消すべく、2024年に設立されました。今後、統計学あるいは統計的機械学習手法の知見と、大規模なデータや複雑なモデルをフレンドリーに扱える計算機環境の構築・提供を通じて、また社会と研究者のネットワークを活かして、未だ社会に数多く存在する人間的な課題の解決をお手伝いすることが我々の存在意義だと考えています。皆さまと共に少しでも多くの知見を明らかにし、少しでも多くの社会課題の解決が実現できれば幸いです。
千葉大学 データサイエンスコア
ダイレクター 西内 啓
本部局は採択されたJ-PEAKS 地域中核・特色ある研究大学強化促進事業において、「研究力の向上戦略」及び「研究力向上計画」を「Biohealth Open Innovation Hub」の活用も進めつつ、効率的・効果的に遂行し、全学への横展開、本学の中長期的な発展に繋げていくため、学長のリーダーシップの下で全学的推進体制を構築する新たな組織です。
千葉大学データサイエンスコアでは研究活動及び対外発信に当たり、責任ある研究活動の推進、公正性の担保の観点から行動規範を制定しております。
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